代表作品を鑑賞できます。解説とあわせてお楽しみください。
1930(昭和5)年は、鷹山宇一にとって劇的な、ひとつの節目となる1年であったに違いない。日本美術学校を卒業した年であり、二科展に木版画2点が初入選を果たした。そして、今日当館が把握する限りでは、この年に制作された作品は油彩画、木版画と混在しており、鷹山の画家としての方向性を探る様々な試みがなされたであろうことを想像することが出来る。
油彩画は、当時流行のフォーヴィスムを踏襲した、茶系の絵の具を幾重にもキャンバスに塗り重ねたような作風で、モチーフに都会の風景を描いているのが特徴的。一方木版画はというと、これもまた当時の日本洋画界の最先端をいくシュルレアリスム風の、しかもかなり手の込んだつくりであり、気に入った1枚が刷り上がると版木を全て壊してしまったという。
機械シリーズとでも言えようか、対をなすようなこの『機械と虫』『機械と鳥』は、鷹山が自宅アトリエに長く秘蔵していた木版画で、おそらく同年の1930年に制作されたものだろう。巧に計算された画面配分、直線や曲線などを用いた幾何学的な構図は、鷹山のデザイナーとしての側面を覗かせている。また、モチーフにも目を引くものがある。特に機械として表現されているものはどうしたことだろう、無機的なモノであるはずの機械はまるで感情を持った「生きもの」のように見えてはこないだろうか。「機械を擬人化」した、いや逆に、「人間が機械化」したかのようである。自然が創り出した同類であるはずの虫や鳥そして人間が、ここでは、人間だけ切り離されて機械と同化している。
画家を志し青森を飛び出して3年。憧れの東京にはこれまでにない新しい世界が広がっていたことであろう。街並みも人も、すべてが画家魂を揺さぶるスパイスであったに違いない。これらは鷹山独特の感性により昇華され抽象化されて、鷹山宇一の「都会風景」としてここに表現されている、そのように思えてならない。
(学芸員 大池亜希子)
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