代表作品を鑑賞できます。解説とあわせてお楽しみください。
「縹渺夢幻」 1995年、キャンバス・油彩、116.7×116.7cm
1995年 第80回二科展出品作
春夏秋冬、フトした瞬間に季節の移ろいを肌で感じる時がある。それは日差しの柔らかさであったり、影の色、風の匂いであったりと様々だが、鷹山宇一の『縹渺夢幻』に、私はここ七戸の、秋から冬へと移行する季節の変わりめを見たように思う。
1995年9月、第80回を記念する「二科展」がおなじみの上野・東京都美術館において開催された。いかにも二科らしい200号、300号といった大きな作品が並ぶ代表作家たちの部屋の中に、鷹山の作品は、いつものように異彩を放ち、格調高く静座していた。しかし、その作風はというとあの代名詞的な「花と蝶」ではない、新たな局面を見せていたのに大きな驚きを覚えたものである。清新な変化を遂げたその作品『縹渺夢幻』は、画風を確立した、87歳を迎えようとしている画家のものとはとても思われない。それは「新しい価値の創造に向かって」との二科会趣旨を正に鷹山自らが体現しているかのようで、半世紀を二科会と共に歩んだ、さすが重鎮をなした画家ならではの作品であった。
緑がかった青を基調とした、鷹山独特の透明感にあふれた画面は、澄み渡った空が広がる晩秋の早朝、はじめて外気に触れた時のピーンと肌を刺す、清浄なあの空気、「冬」の訪れを予告するあの空気を感じさせる。
生涯の大半を東京に生きた鷹山ではあるが、ふるさとの記憶は体中に浸透して画家の核心部分に確かに止まっている・・・それは、同じ土地で生きたもの同士が「共有」し得た感覚なのだろうか。作品を前に、同じふるさとを確信した瞬間であった。
(学芸員 大池亜希子)
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